♯株価大暴落
2024年8月5日から6日にかけて、日経平均が「歴史的な乱高下」をしたことで市場が騒然としました。急落した株価がすぐに戻る現象は、株式投資歴が長い人ならば必ず経験したことがあるはずの現象です。なぜ、大暴落した日の翌日にちゃんと株価が戻ったのでしょうか?今後の糧にするために整理してみましょう。
ブラックマンデー超えの大暴落→歴史的急騰!日経平均が乱高下
8月5日月曜日、週明けの東京株式市場はこの世の終わりのような様相を呈していました。日経平均の終値が前営業日で▲2217円安だったところからさらに売り注文が殺到して、この日の終値が▲4451円安と過去最大の下げ幅を記録したのです。
面白いと感じたのは、一部の個人投資家が悲鳴を上げていたのと対照的に、金融の専門家たちは総じて大暴落だとはとらえていなかったことです。
「株は下がるときは下がるんです」
「この下げはパニック売りの側面が強いですね」
「個人投資家の中には、今が買い時だと考えている人の方が多いと思います」
結論の部分は皆こんな感じでした。
そしてその翌日の8月6日、株価は+3217円と過去最高の上げ幅で戻ります。たぶん専門家たちも「予想通り」と心の中で感じていたことでしょう。そしてこの株価がすぐに戻る現象は、株式投資歴が長い人ならば必ず経験したことがあるはずの現象でもあります。
「なぜ、この日、大暴落した日の翌日にちゃんと株価が戻ったのか?」
についてまとめてみたいと思います。
わずか1カ月弱で株価は25%も減少新NISAを始めたばかりの人は、まービックリ
最初に、今回の暴落について「何が起きたのか」を確認してみましょう。
7月12日の日経平均は4万2224円と過去最高値に到達し、
「夏休みが終わる頃には4万5000円超えかな」と思わせるほど好調でした。
その期待に反して、それから株価は月末に向けてだらだらと下げ続けます。アメリカではトランプ大統領候補が中国への制裁をちらつかせ、マグニフィセントセブンは好業績を発表しても株価が下がったりと不安定な展開が繰り広げられました。
そして日本では運命の8月5日、終値が3万1458円まで下がる大暴落の日を迎えました。わずか1カ月弱で株価は▲25%も減少したことになります。これは新NISAを始めたばかりの投資家にとっては大打撃という事件だったでしょう。
ファンドマネージャーや機関投資家は「会社のルール」に沿って損切りをする
では次に、
「なぜこれだけ暴落したのに、その翌日には+3217円と大幅に株価は戻したのか?」
「なぜ専門家はこれだけの暴落にもかかわらず、全然うろたえていなかったのか?」
を考えてみましょう。
パニック売りと言う言葉が専門家の間からも出ましたが、そのパニック売りには、さっさと利益を確定した外国人投資家以外に3つの参加者が関係しています。
まず最初にまっとうなファンドのファンドマネジャーがいます。投資のプロたちです。
実はこのプロのひとたちは自分の判断でこの暴落を乗り切ることが禁止されています。投資家から資金を預かるときに設定されたリスクルールがあって、株価がある一定の水準を割ったら損切りをしなければいけないのです。
ですから心の中で「今はパニックだな」と思っていても、彼らはルール通りに株を売却します。
一般の投資信託でもそうですが、人気のインデックス連動型投資信託は、上げ下げよりもインデックスにぴったり連動することが求められます。そのため、日経平均が下がればあわててその先を予測して持っている株をしっかりと売っていきます。
生命保険や損害保険などの機関投資家も同じです。運用しているのはプロとはいえ会社員のファンドマネジャーですから、会社のルール通りに市場が下げる局面では株を売ります。
このメカニズムは投資の神様といわれるピーター・リンチというファンドマネジャーが強調していたことです。
ほとんどの投資ファンドが、市場の平均であるインデックスファンドよりも成績が悪いという現象がある中で、ピーター・リンチのマゼランファンドは毎年、市場の倍の運用成績を続けていました。ピーターは「ルールの足かせがついているのに市場を上回っている」ことをむしろ誇りにしていて「個人だったらもっと勝てる」と話していたものです。
ロスカット民と個人投資家が暴落に拍車をかける
次に、市場が暴落を始めると信用売買をしていた人たちが強制的にロスカットに追い込まれます。7月までは日経平均はどんどん上がりそうな状況でしたから、現物だけでなく信用でも買いを入れたひとたちがたくさんいました。信用取引とは簡単にいえば借金をして手持ち資金よりも多くの株を売買することです。
そのタイミングで前述のように一か月かけて株価が下がります。最終的に▲25%安まで下がったのですが、そうなると追い証といって追加の証拠金を払わないと借金が維持できなくなります。私も過去に一度、追い証に追い込まれたことがありますが、心理的には心臓が止まりそうになるものです。普通の投資家なら追い証が発生する前に、自分のルールでロスカットをして株を売ります。
今回、特に8月5日の最大の暴落の局面ではこうしたロスカット組が大幅に株価を下げたことになりますが、それは取引の特性上仕方のないことだったと思います。
そして三番目に一般の個人投資家がこのようなケースでは売りに回ります。特に新NISAを始めたばかりの方は心配でしょうがなかったことでしょう。平常時は投資家は企業業績を見て株を売るのですが、暴落時には株価を見て株が売られます。これが連鎖したのです。
さて、それで冒頭の現象に戻ります。
金融の専門家たちは8月5日の大暴落の日でも、全く心配をしていませんでした。テレビで発言をすると言質がとられるので立場上そう発言する人はあまりいませんが、心の中では大多数の人が「明日には戻すだろう」と思っていたはずです。そして実際にそうなったのですが、それがこの記事の本題です。
専門家たちは株式市場の暴落を二つに分けてとらえています。心理的な暴落と、経済ショックです。
日銀総裁の方針変更はすでに織り込み済みの話
今回の暴落の報道で印象的だったのは、多くのメディアが1987年10月のブラックマンデーにこの大暴落をなぞらえていたことです。
リーマンショックやコロナショックではなかったことが実はポイントなのです。というのも日本ではブラックマンデーは心理的要因で起きた暴落であり、比較的早く市場が回復した事件として記憶されています。
株式の暴落にはこのような回復が早い心理的なものと、そうではない本格的な経済ショックがあります。日本の株式市場でいうと、後者にあたる本格的な株価崩壊にあたるのが1990年代のバブル崩壊、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、そして2020年のコロナショックでしょう。
前者の暴落は業績とは関係なく起きるので、株価は戻りやすい傾向にあります。なにしろ価値が変わっていないのに価格だけバーゲン価格になるわけですから、買い手はすぐに表れます。ところが後者の暴落は経済の前提条件が変わったことが理由で、企業の業績も大きく崩します。ですから前者の場合の株価は比較的回復しやすい一方で、後者の株価は長期的なダメージを投資家に与えます。
今回の株式の大暴落は、確かにきっかけは日銀総裁の方針変更でした。しかしこの方針変更、為替の関係者にとってはサプライズがあったかもしれませんが、企業経営の観点では織り込み済みの話です。
日銀がある程度利上げに動き、アメリカのFRBが利下げに動くというのはすでに株価にも織り込み済みの話です。そのうえで企業業績を考えるとむしろ直近の1ドル=160円の円安のほうが日本経済には打撃がありました。
よく日本経済は円安のほうがいいという人がいます。輸出関連株を持っている人にとってはそうなのですが、日本経済全体でみれば製造業は2割しか占めていません。7割はサービス業や小売業など第三次産業が日本経済を構成しているわけで、極端な円安はむしろ経済にはブレーキです。
そう考えると、植田ショックは為替は動かしましたが、日本経済全体で見れば悪い結果にはなりません。ですから金融の専門家は、8月5日の大暴落の後でも経済の前提が変わったとは考えなかったのです。
これと過去の「ショック」の違いを比較してみましょう。
バブル崩壊の引き金になった金融緩和策の終了時、1990年12月末では定期預金金利が6.08%の水準でした。ここまで金利が高まると借金をして不動産投資をしていた企業は不動産を投げ売りせざるを得なくなります。地価崩壊が経済崩壊を招き、経済の前提が変わりました。
リーマンショックでは世界中の金融機関が証券化されたサブプライムローンを保有してしまい、どこがいつ破綻するのかがわからないという過去の歴史にない状況に追い込まれました。最終的に政治判断でリーマンブラザーズ以降、破たんしそうな大手金融機関が保全されたことでショックは収まりますが、金融システムが崩壊するかもしれないというのは経済の大きな前提変化でした。
コロナショックはそもそも世界の経済が止まってしまうという変化でした。このときは本当はもっと大きな株式市場の下落が起きていてもおかしくなかったのですが、世界の中央銀行が先回りして金利を下げることで株価のショックは最小限で済みました。
そして現在の状況です。それらのショックと比較して、為替以外の経済の前提条件は大きく変化していません。そこから考えると今回の暴落は心理的なものだと断定できます。だとしたら下げているときはむしろ、株を安く買うチャンスです。
実際に、8月5日に株を買い迎えた強者は少なくなかったはずです。何しろ暴落とはいえ売買が成立している以上、売って損をした人と同じ数だけ、買った人がいたことになります。
心理的には8月5日のような暴落はセリングクライマックスといって、後から考えると買いの最大のチャンスなのですが、なかなかそれを適切に捉えることは難しいものです。私はうっかり8月4日を「セリングクライマックスじゃないか?」と勘違いして、少し早く買ってしまいました。儲けが少なく残念な結果でした。
そして大半の人は8月6日のように、市場心理の大勢が判明したところで賢く動きます。前日深夜のシカゴ先物から8月6日には大暴落した市場が2000円以上戻すことが確実だったため、この日は安心して投資家が買いに向かえたのでしょう。それがこの日、過去最大の株価上昇が起きた原因です。みんな株価が戻すのを見て、それで株を買ったわけです。
日経平均の下げに対する過剰な心配はしないでいい
さて、最後に、今後の日経平均に死角はないのでしょうか?怖いのは今回のような心理的な要因ではない、本格的な経済の前提変化が起きるときです。
その点で私が未来予測の立場で警戒していることはAIバブルの崩壊です。いま、世界のITトップ企業は先を争ってAI投資を続けています。その結果、AIに欠かせない半導体を製造するエヌビディアや、それを組み込んだデータセンター、それを利用するクラウド企業の株価が上がっています。
日本では東京エレクトロンに代表される半導体製造機器メーカーの株が上昇して、これが日経平均を押し上げる働きをしています。そしてこの経済前提は「しばらく変わらない」というのが私の見立てであり、多くの専門家の見立てでもあります。
しかしおそらく2026年あたりになると想定されますが、そのAI投資の事業機会がより具体的に判明するタイミングが来ます。そのときの勝者がエヌビディアやマイクロソフト、グーグルのままであればいいのですが、前提が大きく変わったとしたらそれはショックにつながるでしょう。
これは2000年のITバブルに似ています。インターネットが世界を変えることは間違いないと思われた一方で、その勝ち組が確定していませんでした。当時株価が高かった企業で今でも株価が高いのはアマゾンやマイクロソフトぐらいでしょうか。当時はアメリカオンラインが世界最大の企業になると期待されていた一方で、グーグルは当時はまだ新興企業で、メタは存在せず、アップルはむしろ負け組でした。
インターネットバブルの崩壊はある意味で、投資先のメンバー交代だったのです。
それと同じメンバー交代が2026年頃を境にAIの世界で起きる可能性があります。そのときは世界的に株価にショックが起きたとしたら、その場合は今回のように「次の日になれば株価は戻るさ」などと安心はしていられないことでしょう。
その日が来るのは投資家としては心配なことですが、少なくとも今のところ、日経平均の下げについては過剰な心配はする必要はないように私は考えます。
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